「カチカチ…」と軽快な音を立てて珠(たま)を弾く、そろばん。
スマートフォンにも電卓機能が標準装備され、複雑な計算も一瞬でこなせる現代。「なぜ今さら、そろばん?」そう思う方も多いかもしれません。
しかし、その「そろばん」が今、「SOROBAN」として世界中から教育的価値を見直されていることをご存じでしょうか。
電卓が「答えを出す」ための道具であるのに対し、そろばんは「脳を鍛える」ための道具です。今回は、デジタル時代だからこそ光る、そろばんの驚くべき教育的価値について解説します。
1. 脳の「イメージ力」を鍛える珠算式暗算
そろばん学習の最大の特長は、やがて頭の中にそろばんの盤面をイメージして計算する**「珠算式暗算(しゅざんしきあんざん)」**を習得することにあります。
- 電卓や筆算: 主に言語や論理を司る「左脳」を使います。
- 珠算式暗算: 数字を「珠の形」というイメージで捉え、右脳で処理します。
この「頭の中のそろばん」を高速で動かす訓練は、右脳(イメージ力・直感力)と左脳(論理的思考)を同時に、かつ高速で連携させる高度な脳のトレーニングになります。
この能力は、算数だけでなく、文章の読解や記憶力など、他の学習分野にも良い影響を与えることが期待されています。
2. デジタル時代に必須の「集中力」
そろばんは、一瞬たりとも気が抜けません。指先の正確な操作、珠の動きの確認、次の数字のインプット。この一連の動作を高速で行うには、深く研ぎ澄まされた集中力が不可欠です。
情報が溢れ、一つのことに集中し続けるのが難しくなっている現代において、そろばんの練習を通じて養われる「没頭する力」は、子どもたちにとって非常に価値のあるスキルとなります。
3. 「ワーキングメモリ」を鍛える最強のツール
ワーキングメモリ(作業記憶)とは、情報を一時的に記憶しながら、同時に別の作業を行うための脳の機能です。例えば、「文章を読みながら内容を理解する」「会話を聞きながら要点をまとめる」といった場面で使われます。
そろばんの「読み上げ算」を想像してみてください。
- 次々に読み上げられる数字を「耳で聞いて記憶」し、
- 同時に「指先で珠を弾いて計算」し、
- 「計算途中の数字を記憶」し続ける。
これはまさに、ワーキングメモリの集中トレーニングです。この能力が鍛えられると、学習効率や仕事の処理能力が格段に向上すると言われています。
4. 電卓にはない「できた!」という自信
電卓は、誰が押しても正しい答えが出ます。便利ですが、そこに「上達」はありません。
一方そろばんは、練習すればするだけ指が速く動くようになり、昨日まで解けなかった問題が解けるようになります。そして「検定試験」という明確な目標があります。
「練習して、目標をクリアし、合格する」
この小さな成功体験の積み重ねが、「やればできる」という**自己肯定感(自信)**を育みます。この自信こそが、計算力以上に、子どもたちが将来困難に立ち向かうための強い土台となるのです。
まとめ:そろばんは「脳のトレーニングジム」
電卓やAIがどれだけ進化しても、私たちの「脳」そのものを鍛えてはくれません。
そろばんは、決して古い計算道具ではありません。 むしろ、指先というアナログな入出力装置(インターフェース)を使って、集中力、記憶力、イメージ力といった「脳の基礎体力」そのものを鍛え上げる、最強の教育ツールなのです。
計算は電卓に任せれば良い時代だからこそ、「SOROBAN」で脳を鍛える価値が、世界的に見直されています。

